企画概要

本企画は、現代の映像制作において不可欠なVFX(Visual Effects)の品質を、撮影段階の素材から根本的に見直すプロジェクトである。学生が通常使用できる機材とプロの現場で使用される機材との間にある性能差を埋めるべく、ハリウッド映画制作でも採用されるハイエンドな撮影システムを導入。VFX処理を前提とした最適なフッテージ取得のための技術検証を行うとともに、その成果を高品質なショートフィルム制作へと昇華させ、技術と表現の両面から実証することを目的とする。

活用方法

大学の常設機材にはない、VFX制作の品質向上に不可欠なハイエンド・シネマレンズ(SIGMA・Carl Zeiss等)および、RAW収録に必要な周辺機器のレンタル費用として活用した。

企画経緯

昨今の映像制作においてVFXは不可欠だが、その最終的な品質はポストプロダクション技術だけでなく、撮影素材(フッテージ)の解像度・ラティチュード・光学特性に強く依存する。しかし、一般的な学生の制作環境と商業映画の現場には機材スペックに大きな乖離があり、これがクオリティ向上の見えない障壁となっていた。そこで、VFX処理を前提とした「最適な素材」を撮影する技術的知見を習得し、プロフェッショナルと同等の環境を構築して実証実験を行う必要性を感じ、本企画を立案した。特に、VFXの入り口となるカメラ・レンズの特性を深く理解することが、将来の映像業界を担う人材として急務であると考えた。

詳細

本検証撮影では、2023年公開の映画『ザ・クリエイター/創造者』における撮影システムを参考に機材構成を決定した。同作はコンシューマー機に近い「SONY FX3」をメイン機として採用しながらも、外部レコーダーによるRAW収録と高性能シネマレンズを組み合わせることで、ハリウッド水準の映像美を実現した画期的な事例である。 具体的な機材として、メインカメラに「SONY FX3」、比較検証用としてDHU卒業生より貸与いただいた「SONY FX9」を使用。レンズには「SIGMA FF High Speed Prime Line 50mm T1.5」と「Carl Zeiss Supreme Prime 50mm T1.5」を採用した。さらに「ATOMOS NINJA V」によるRAW収録、「TILTA Nucleus-M」でのフォーカス制御、「DJI Transmission」によるモニタリング環境を構築した。

検証の主軸は以下の3点である。第一に、同一条件下におけるFX3とFX9のセンサー特性およびルックの差異。第二に、SIGMAとZeissという異なるシネマレンズが持つ光学特性(ボケ足、フレア、ディストーション)の違い。第三に、VFXワークフローにおけるRAW収録データの柔軟性と優位性の実証である。これらを通じ、機材選定が最終的なVFXクオリティに与える影響を体系的に検証した。

企画の進捗状況や成果

現在、予定していたテスト撮影は全て完了した。撮影では、異なるカメラ・レンズの組み合わせによる複数パターンのフッテージ取得に成功し、ポストプロダクション工程へと移行している。現在はDavinci Resolve等を用いたカラーグレーディングおよびVFX合成テストを実施中で、RAWデータの耐性やレンズごとの描写の違いについて詳細な分析を行っている段階である。

企画を実施した感想

実際にハイエンド機材を運用したことで、座学やweb上の情報だけでは得られない「質感」や「重量感」を含めた現場レベルの知見を得ることができた。特に『ザ・クリエイター』と同様の構成であるFX3とシネマレンズの組み合わせは、コンパクトながらも圧倒的な描写力を発揮し、機材のサイズと画質の相関関係についての既成概念を覆す体験となった。 一方で、FX9との比較を通じて、大型センサー搭載の上位機種が持つ階調表現の豊かさや、現場での運用性(SDI端子の有無やNDフィルターの内蔵など)の違いも痛感した。また、ZeissとSIGMAのレンズ比較では、単純な解像度だけでなく、VFX合成時のなじみやすさや「味」といった定性的な要素が作品のルックに大きく影響することを肌で感じた。 本企画を通じて、単に高価な機材を使うことが目的ではなく、目指す映像表現に合わせて最適な機材を選定する「審美眼」を養うことこそが、VFXアーティストおよびシネマトグラファーとして最も重要であると再認識した。この経験は今後の制作活動において極めて大きな財産となると確信している。